両国一の老舗ちゃんこ店は、鶏肉ソップ炊き一筋のこだわり店。
両国といえば相撲、相撲といえぱちゃんこ鍋。もし両国でちゃんこを食ベたいと言ったら、地元っ子はまずこの「川崎」さんを薦めるだろう。昭和十二年の創業と、この地で最も歴史があるだけでなく、正統のソップ炊きが食ベられるお店だからだ。
「一から言っちやうとね、ソップ炊きっていうのは、鶏ガラでとった醤油昧のちゃんこのこと。だから相撲の世界では、鶏ガラみたいにやせた力士のこと『ソップ型』ってて言うんです」。
三代目ご主人の川崎正さんはてきぱきと説明する。
「けど、ちゃんこには特にルールはないからね。相撲取りの食ベ物の総称が、ちゃんこ。別に鶏が正統なんじやないです、念のため」。
ではなぜ、鶏肉にこだわるのだろう。
「昔は相撲部屋も貧しくて、旨いものというと魚でね。たまに食ベられる肉も、四つ足のものは『手をつく=負け』につながるといって、敬遠したんだそうです。鶏は二本足でしょ?だから相撲部屋の一番のごちそうは、鶏肉のちゃんこだったんですよ」。
初代である正さんの父は、幕下まで行った力士。つまり、自分の食ベたいものを店で出したのである。
「古い店はよく、味は昔から変わってないって言うけど、ウチは変わってるでしょうね。今出してるのは、私の好きな味だから。まあ、自分が旨いと思うものを出すっていう姿勢は、変わっていないわけだけどと」、川崎さんは笑いながらいう。
町は変わる。でも地場の人たちが頑張っていれぱ、両国らしさは残っていく。
メニューは、一種類だけのちゃんこと、焼き鳥、とりわさなど、鶏料理のみである。そこからもお店の自信がうかがえる。
「素材は胸を張れるからね。昔、両国は千葉の方から来る電車の終点でね。だから野莱とか海産物とか、新鮮なものがここに集まったんです」。
今は九州の会社と特約して送ってもらっている地鶏。ハクサイ、ネギ、ゴボウなど、野菜は旬のものが全国から届く。油揚げは戦前から続く豆腐屋のもの。常連客がほとんどというのもうなづける話だ。
「けど、たまたま両国に来たっていう広島の女の子が『昔、私の近所もこんな家がたくさんありました』って、古い塀や店の中を盛んに懐かしがってくれたりね。何度もビルにしようと思ったけど、こういうお客さんの声を聞くと、壊せません」。
確かに両国駅から徒歩二分の立地は、不動産業者から見れぱ『もったいない』かもしれない。けれど、今や少なくなった“両国らしさ”が、この店には詰まっている。
「町が発展すると、往んでる人は追い出されちやうんだよね。その町で生きてく人がいなくなったら、らしさも消えます。こんな小さな店でも頑張ってれぱ、両国はいい町になる、そう信じてるんです」。
ちょっとオオゲサだけどさ、と笑う川崎さん。横でかいがいしく働く妻の千江子さん。まだまだ元気なお母さんの初栄さん。家族が作り出すちゃんこは、まさに両国の味である。